東京地方裁判所 昭和59年(行ウ)10号 判決 1988年7月27日
原告
学校法人倉田学園
右代表者理事
倉田キヨエ
右訴訟代理人弁護士
白川好晴
被告
中央労働委員会
右代表者会長
石川吉右衞門
右指定代理人
渡部吉隆
同
溝口嘉正
同
小野寺幸夫
同
倉田洋一
被告補助参加人
大手前高松高等(中)学校教職員組合
右代表者執行委員長
天野滋
右訴訟代理人弁護士
田原俊雄
同
高野範城
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 中労委昭和五六年(不再)第七八号事件について、被告が昭和五八年一一月一六日付でなした命令を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件命令の成立
香川県地方労働委員会は、補助参加人香川県大手前高松高等(中)学校教職員組合(以下「組合」という。)が、原告(以下「学園」ともいう。)を被申立人として申し立てた不当労働行為救済申立事件(同委員会昭和五六年(不)第一号事件)について、組合が昭和五五年一一月八日付で昭和五五年度冬季ボーナスに関して申し入れた団体交渉に原告が応じないのは不当労働行為であるとして、昭和五六年一一月七日付で、「原告は、組合の昭和五五年一一月八日付昭和五五年度冬季ボーナスに関する要求について、(1)海野伸二が交渉委員として出席すること(2)開催場所が学校内であること、を理由として団体交渉を拒否することなく、資料を提出するなどして、誠意をもって団体交渉に応じなければならない。」との救済命令を発した。原告は、昭和五六年一二月四日に右命令を不服として、原告に対して再審査の申立てをしたところ(中労委昭和五六年(不再)第七八号事件)、被告は、昭和五八年一一月一六日付で、「原告は、組合の昭和五五年一一月八日付昭和五五年度冬季ボーナスに関する要求について、(1)海野伸二が交渉委員として出席することを理由として団体交渉を拒否することなく(2)団体交渉の開催場所を学校外とすることに固執することなく、資料を提出するなどして、誠意をもって団体交渉に応じなければならない。その余の本件再審査申立てを棄却する。」との別紙(略)のとおりの命令(以下「本件命令」という。)を発し、この命令書の写は昭和五八年一二月二三日に原告に交付された。
2 本件命令の違法
しかしながら、本件命令は前提とした事実の認定及び法律上の判断に誤りがあり違法であるので取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の主張は争う。
三 抗弁
被告は、本件命令書理由中「第一当委員会の認定した事実」記載の事実に基づき、同「第二当委員会の判断」記載のとおり判断したものであって、右事実認定及び判断に誤りはなく、本件命令に違法はない。
四 抗弁に対する認否及び原告の主張
1 本件命令書中「第一当委員会の認定した事実」に関する認否
(一) 「1当事者等」について
(1) (1)の事実のうち教職員数は否認し、その余の事実は認める。教職員数は一二六名(うち高松校は六三名)である。
(2) (2)及び(3)の事実は認める。
(二) 「2団体交渉のルールについて」について
学園が団体交渉ルールについて組合との間に合意がないことを理由に団体交渉に応じようとしなかったとの点は争い、その余の事実は認める。学園は、昭和五二年一二月一三日までに組合の要求に応じて数回ほど校長又は理事が出席する団体交渉を開催している。
(三) 「3昭和五五年度冬季ボーナスについて」について
(1) (1)の事実は認める。ただし、学園は、組合員の処分問題は団体交渉になじまないとの立場でまず賃金の話をしようと組合に提案したが、組合が処分問題に固執して賃金問題を交渉する機会を放棄したものである。
(2) (2)の事実は認める。ただし、宇喜多前校長との確約なるものは存在しない。
(3) (3)の事実は認める。なお、学園は、団体交渉につき銀星旅館という具体的な場所を提示している。組合のシュプレヒコールは、昭和五三年三月八日のみならず、その前後においても数回行われており、また、学園は、組合の小会議室の無断使用については昭和五二年度中から警告を行っている。
(4) (4)ないし(17)の事実は認める。
(5) (18)の事実は認める。ただし、学園が資料の提出を拒否したのは、これを出しても組合が納得しないであろうと考えたからではなく、そもそもその必要がないからである。また、学園が昭和五六年一月一四日の団体交渉に応じたのは、香川県地方労働委員会からボーナス支給の一般的基準を説明するための団体交渉という趣旨で斡旋があったことによるものであり、また、その際の学園の説明の重点は<3>の点にあった。
(6) (19)の事実は認める。ただし、組合は、団体交渉の議題がボーナスの支給に関する一般的基準に限定されているのを知りながら、あえて当時既に説明済みであった勤務評定の基準を議題としてきたものである。
(7) (20)は争う。組合の昭和五六年二月八日付団体交渉の申入れは存在しない。また同年二月一三日の組合の申入れに対し、学園が三月に開催することを提案したところ、組合もこれを了承し、さらに三月二日の組合の申入れに対し同月一一日に団体交渉を行う旨を回答したところ、組合はこれを了承したにもかかわらず、同月六日に申入れをするなど意図的に短期間に多数回の団体交渉の申入れをしてきたものである。
(8) (21)の事実は認める。ただし、前記のように勤務評定の項目については、既に組合に対して説明済みであり、右以外の事項即ち評価項目の重要度、各人に対する評価の結果については公表する義務も必要性もない。
(9) (22)の事実は認める。
2 原告の主張
(一) 組合の救済申立資格の不存在
本件命令は、組合が原告の設置する香川県大手前高松高等学校及び同県大手前高松中学校(以下これらを総称して「高松校」という。)の生徒指導主事、進路指導主事という、いわゆる主任の地位にある者に対しても組合員資格を認めて組合に加入させているにもかかわらず、組合に救済申立て資格を認めている。しかし、学校教育法施行規則二二条の三の文言に照らせば、主任の権限中には職員に対する管理監督の権限が含まれていて中間管理職として位置付けられているし、現に、学園においても主任については、主任手当を支給するとともに、所掌する職員の勤務評定に参画させて労働関係についての計画と方針に関する機密事項に接しさせているから、これらの者は労働組合法二条但書一号にいう「使用者の利益を代表する者」に該当する。したがって、組合には救済申立ての資格がないものとして、本件申立ては却下すべきものである。
(二) 原告の団体交渉応諾義務の不存在
本件命令は、学園が組合からの昭和五五年度冬季ボーナスを議題とする(以下これを「本件交渉事項」という。)団体交渉の申入れに応じる義務を負っているものとして救済命令を発しているのであるが、以下に述べるとおり、原告には団体交渉に応じるべき義務がないのであり、また、仮にこのような義務があるとしても、原告は既に誠実に団体交渉を尽くしている。
(1) 学園には、従来から職員に対して基本給及びボーナスを県立校並みに支給するとの慣行があったが、昭和五五年度分についてこの慣行を改廃することを議題とする団体交渉の申入れがあって、同年五月二一日に団体交渉を行ったが、その席上、組合は、執行委員長天野滋らに対する処分問題のみを取上げ、右慣行について交渉を行わず、賃金、ボーナスについての団体交渉の機会を自ら放棄し、その結果、右問題につき合意に達することができなかったのである。したがって、結局同年度のボーナス等については従来の慣行どおりとすることが確定し右の問題についてはその決着をみているものというべきである。それにもかかわらず、組合は、右年度の途中で、本件交渉事項について団体交渉を求めてきたため、学園はこれに応じなかったものである。
(2) 学園は、昭和五五年一二月五日に組合の「交渉なくして昭和五五年度冬季ボーナスが支給された場合、組合は前渡金として理解する。」旨の文書を受け取ったため、組合としては右ボーナスの受取りを拒否する態度であるものと理解し、組合員に対しては右ボーナスの支給を留保する旨組合に伝えたところ、その直後開かれた職員朝礼で組合役員は右の態度を変更してボーナスを無条件で受領する旨の言動を示したので、原告は同日組合員に対してもボーナスを支給し、組合員はこれを受領した。したがって、右ボーナスの支給により本件交渉事項は解決済みの事項となった。そして、このことは、同月二二日以降の団体交渉の申入れについて、学園の、本件交渉事項については解決済みであるから団体交渉には応じられないがボーナス支給の一般的基準についてであれば交渉に応じるとの意思表明に従って、組合が右事項を議題として団体交渉を申入れてきていること、即ち組合自身においても本件交渉事項が解決済みであることを了承していることからも明らかである。
また、仮に組合が従来の立場を変更していないとしても、個々の組合員は、学園が前渡金としての留保付きであればボーナスを支給する意思のないことを十分に承知しながら、あらためて前渡金として受領する旨の明確な意思表示をしないまま、ボーナスを受領したのであるから、もはや、右ボーナスについて異議を述べることはできず、組合としても本件交渉事項につき団体交渉を求めることはできなくなったというべきであるし、また、組合あるいは組合員がボーナスの受領の際に前渡金として受領する意思があったというのであれば、結局右ボーナスの支給については学園との間で意思の合致がなかったことになるのであるから、組合としては組合員から受領したボーナスを返還させた上で団体交渉の申入れを行うべきであって、このような措置をとらずになされた団体交渉の申入れは労使間の信義に反するものである。したがって、学園は右申入れに応ずる義務を有しない。
(3) その後、学園は、冬季ボーナスについての昭和五六年一月一四日の団体交渉において、学園が公費補助を受けている以上、その経営方針として県立校並み以上の冬季ボーナスを支給するわけにはいかないことを十分に説明して、誠実に団体交渉に応じている。本件命令は、これについて、学園が組合要求どおりに支給できない理由を具体的に説明していないと判断しているが、学園の経営方針は近年盛んに論議されている公の補助金の問題についての社会一般の健全な考え方に合致する合理的なものであって、これが学園の団体交渉における基本的な立場であるから、このような経営方針をとっているということ自体が組合の要求どおりに冬季ボーナスを支給できないことの具体的説明となっている。そして、同日の団体交渉においては、学園は右経営方針をとって譲らず、組合は自己の要求に応じられない財政的理由を説明せよといって譲らず、団体交渉は行き詰まったのである。
また、本件命令は、その後の同年三月一一日の団体交渉における、ボーナスの支給額を決定するための教職員に対する勤務評定についての学園の説明が十分でないとしているが、学園は、いかなる項目を勤務評定の基準とするかについては昭和五三年の一月と七月に組合に十分説明しており、また、この勤務評定の各項目についてどの程度重きを置くかの問題については微妙な性格を有する問題として職員や組合に公表すべき性格のものではなく、したがって考課表を公表する意思はないことを表明している。このような学園の立場は組合においても十分に承知していることであって、学園は誠意をもって説明を行っているのである。
(三) 団体交渉拒否の正当性
本件命令は、学園が組合の本件交渉事項についての団体交渉申入れを不当に拒否したものとしているが、学園の右団体交渉拒否には、次に述べるとおり、正当な理由がある。
(1) 昭和五六年一月二六日から同年三月一一日までの組合の団体交渉申入れは、学園が年度末で極めて多忙であり、団体交渉に応じられないことを十分に知りながら、学園の団体交渉拒否を第三者に印象づけるために殊更に右時期を選び、しかも極めて短期間に多数回に亘って行われたものであって、不当な目的に基づくものであるから学園が団体交渉を拒否したことには正当な理由がある。
(2) 学園と組合との間で昭和五二年一二月一三日に成立した団体交渉のルールに関する協定書及び口頭了解事項によれば、団体交渉においては学園の関係者(校内役員及び教職員)以外の者を交渉委員としないことになっている。しかるに、組合は、学園と雇用関係になく現実に勤務もしていない海野伸二を交渉委員に選任し、学園に対し、同人の出席を認めるよう要求しているが、右要求は不当である。また、海野は、団体交渉において激昂しやすく、その言動が粗暴であるので、同人の出席を許すと正常かつ能率的な団体交渉を期待し難い状況となるおそれがあった。そこで学園は、海野の出席は右の団体交渉ルールに反するものとして同人を交渉委員から除外して団体交渉を行うことを提案した。しかるに、組合がこれに応じなかったため、原告は団体交渉を拒否したもので、右拒否には正当な理由がある。
(3) 従来、学園と組合との団体交渉は学園内の大会議室で行われてきたが、組合は団体交渉と平行して、あるいはその終了後も学園に無断で学園内の小会議室を使用して職場集会を開いている。しかし、学園は、小会議室については教職員の休憩等の福利厚生という本来の用途目的以外には使用させない方針をとっており、組合の右小会議室の無断使用を受忍する義務は一切なく、これを放置することはそれ自体職場秩序の混乱を生じ施設管理上望ましくないものである。さらにまた、組合は、職場集会の際にシュプレヒコールをするなどし、そのため騒々しい雰囲気が醸し出され、これに伴い生徒や一般職員に対して悪影響が現実に生じている。そこで、学園は、これまで組合に対して学園内殊に小会議室での職場集会をやめるよう何度も申し入れたが効果がなかったので、このような弊害を避けるために、学外の、それも具体的な銀星旅館という特定の場所において団体交渉を行うことを提案した。これに対して、組合は、右違法な職場集会が開けなくなることにこだわって学園の提案を真剣に検討しなかったものである。したがって、学園の右団体交渉拒否には正当な理由がある。
五 原告の主張に対する認否と反論
1 被告の認否
原告主張事実は争う。
2 被告補助参加人の主張
(一) 原告の主張(一)「組合の救済申立資格の不存在」について
組合が組合員資格を認めている進学指導主事、生徒指導主事、厚生主任等の主事、主任は、単に校務の分担として任命されているもので、職員の雇用、解雇、昇進又は移動に関して直接の権限を持つ者でも、また使用者の労働関係についての計画と方針に関する機密の事項に関与する者でもないから、労働組合法二条但書一号に抵触するような「使用者の利益を代表する者」ではない。したがって、組合は本件につき救済申立資格を有するものである。
(二) 原告の主張(二)「原告の団体交渉応諾義務の不存在」について
(1) (1)について
原告は、昭和五五年度のボーナスの額等につき同日組合と団体交渉を行ったが、組合が組合員の処分問題のみを取り上げ、結局右交渉事項につき合意に達することができなかったので、右ボーナス額等については従来の慣行に従って支給することが確定し、その結果、学園は、爾後右事項につき団体交渉に応ずる義務を有しない旨主張する。
しかし、同日の団体交渉においては、組合員の処分問題についての話合いに終始し、新賃金体系及び年間期末・勤勉手当についての話合いは行われなかっただけのことであるから、右ボーナス等につき従来の慣行どおりとすることに確定するはずがない。そしてその後組合は学園に対し、何度も団体交渉の開催要求をしたが、学園は応じなかったものであり、不当に団体交渉を拒否しているものというべきである。
(2) (2)について
組合は昭和五五年一一月八日付要求書において、昭和五五年度冬季ボーナスの要求を学園に提出し、その後も何度か団体交渉の申入れを行った。これに対して、学園は交渉委員や交渉場所を理由に団体交渉を拒否し、支払日の前日である同年一二月四日に組合の要求に対する回答を文書で組合に提出した。そこで、組合は学園の回答に対する態度表明として、同日付の文書で翌五日に、団体交渉なくして支給された場合は前渡金として理解する旨を学園に示した。これに対し、同日学園は、組合員に限っては支給を留保する、個人の資格であれば支給するとの意向を表明したので、組合の組合員は、個人の資格でボーナスを受領したものであって、組合としては右態度の変更をしていないし、その後も一貫して前渡金として理解し、団体交渉開催を要求し続けているものであり、学園がこれに応じないのは不当である。
なお、原告は、組合は、昭和五六年一月二二日以降、ボーナス支給の一般的基準について団体交渉を求めているから、本件交渉事項が解決済みであることを了承しており、学園は団体交渉に応ずる義務を有しないと主張しているが、右交渉議題の変更は、津田事務長の、議題の名目を変えれば学園は団体交渉に応ずるとの示唆に基づいてなされたものにすぎず、本件交渉事項が解決済みであることを組合が了承していたためではない。
(3) (3)について
原告は、昭和五六年一月一四日の団体交渉において、学園が公の補助を受けている以上、県立校並み以上の冬季ボーナスを支給する経営方針をとるわけにはいかないとの合理的説明をなし、団体交渉義務を尽くした旨主張するが、全国的には、教職員に対し、いわゆる公立並み以上の賃金・労働条件で待遇している私立学校が多数存在しており、現実に右理由によって私学助成金がカットされたという事実はない。公的な助成が行われていることと、労働条件とは切り離して考えられるべきであり、そうでなければ公的な助成金を受けている機関や企業の労働者は、賃金等の労働条件に関する団体交渉権を否定されることになってしまう。結局学園は、自己の立場が何ら正当性を持たないのに、組合の学園に対する、財政状況を示す資料等を明示して交渉に応じて欲しい旨の要求を無視したもので、誠実に交渉に応じたものとはいえない。
また、学園はボーナス支給のための勤務評定につき、いかなる項目を勤務評定の基準とするかについては昭和五三年の一月と七月に組合に十分説明したとするが、この説明は宇喜多校長時代のもので、査定について二、三の項目を例示的に示したにすぎず、その上、昭和五四年四月以降は倉田校長に変わり、査定が大幅に拡大されており、この点を団体交渉を通じて明らかにさせることは正当な要求である。したがって、学園が誠実に団体交渉に応じているとはいえない。
(三) 原告の主張(三)「団体交渉拒否の正当性」について
(1) (1)について
原告は、昭和五六年一月二六日から同年三月一一日まで学園が団体交渉に応じなかったのは多忙であったからであり、不当に団体交渉を拒否したものではない旨主張しているが、その多忙の内容は例年行われている入試や定期試験、卒業式等であり、昭和五四年度及び昭和五五年度にも同時期に団体交渉が行われており、しかも当時の団体交渉時間は学園側が二時間に限定することを主張し、時間がくると団体交渉を打ち切って退席していたのであるから、わずか二時間程度の団体交渉が開催できないような状況ではなかったのである。したがって、学園の前記態度は不当に団体交渉を拒否したものというべきである。
(2) (2)について
原告は、昭和五五年三月三一日付で海野伸二を解雇したので学園の教職員ではないから、海野を交渉委員とする団体交渉には応じられないと主張しているが、現在この解雇処分については高松地方裁判所で係争中であり、教職員としての地位を完全に失っているわけではない。しかも、昭和五二年一二月一三日付の団体交渉に関する協定書には「交渉に当たっては、当事者間で自主的に解決するように努める。」との文言があるが、これは当時学園が双方の交渉委員は学園関係者に限ることを主張し、これに反対する組合との話合いが難航したため、結局上記のような文言となったもので、「自主的」の意味として、交渉委員を学園の役員及び教職員に限るとの口頭了解などあるはずがない。また、海野が組合員であることは、組合規約第五条で明らかであるから、海野は当然組合を代表する交渉委員になりうるものである。
また、原告は、海野が団体交渉において態度が乱暴であると主張するが、学園作成の団体交渉経過報告書を見てもそのような記載はなく、事実に反するものである。したがって、海野が団体交渉に参加することを理由とする学園の団体交渉拒否は不当である。
(3) (3)について
原告は、組合が団体交渉の開催日に右小会議室において団体交渉終了後の報告を中心とする職場集会を開催し教育上支障があるため、学内での団体交渉を拒否し学外での団体交渉を提案したと主張するが、組合が右職場集会を開催するのは勤務時間終了後の午後五時一五分以降であり、そのころには大多数の教職員や生徒は帰った後であるから、教職員や生徒に悪影響を及ぼすことはない。また、原告は、組合の職場大会は、小会議室を無断使用して開催されているものであって、学園がこれを受忍する義務は一切なく、これを放置することは施設管理上好ましくないと主張するが、労働組合が事業場内で職場集会を開催することは通例多く行われており、特段の支障のない限り就業時間外の職場施設利用による職場集会の開催は認められるべきものであるところ、右に述べたとおり団体交渉開催日における組合の職場大会開催は、他の教職員や生徒に悪影響を及ぼすものではなく、また、組合は学園に届出たうえで右職場大会を開催しているのであるから、管理運営上支障があるものとはいえず、右職場大会開催のための小会議室使用は認められるべきである。
さらに、組合が小会議室の使用につきこれまで学園から管理運営上支障があるとの苦情等を受けた事実はなく、また学園は、学外で団体交渉を開催するとの提案について、その理由を全く説明しないで、組合がその提案を了承しない限り団体交渉を開催しないとの態度をとり、右立場に固執して、団体交渉を拒否し続けたのであるが、このように話合いの余地のない学園の態度を前提とする団体交渉の拒否が許されないことは明らかである。
第三証拠(証拠略)
理由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 組合の救済申立資格について
原告は、組合には労働組合法二条但書一号にいう使用者の利益を代表する者が加入しているから、右組合には不当労働行為救済申立の資格がないにもかかわらず、本件命令は右申立資格を認めたもので違法である旨主張する。
確かに、労働組合法五条は労働委員会に対して同法二条及び五条二項の要件を欠く組合の救済申立を拒否すべき義務を課しているものであるが、右義務は、労働委員会が直接国家に対して負う義務にほかならず、被申立人たる使用者に対する関係において負う義務ではない。したがって、仮に資格審査の方法ないし手続に瑕疵があり又は審査の結果に誤りがあったとしても、使用者はそのことにより何ら法律上の利益を害されるものではなく、不当労働行為救済命令の取消訴訟において、自己の法律上の利益に関係のない右瑕疵を理由として、その取消を求めることはできないものというべきである。そうすると、原告の前記主張は、組合に法二条但書一号にいう使用者の利益を代表する者が加入しているか否かを検討するまでもなく理由がないものといわなければならない。
三 原告の団体交渉応諾義務について
1 原告の主張(二)(1)について
昭和五五年四月二五日、組合は丸亀・高松両校の労働組合の統一要求として、<1>五五年度新賃金体系及び期末・勤勉手当を年間六か月分とすること<2>組合員三名の処分撤回についてほか五項目の要求を提出し、同年五月二一日団体交渉が行われたが、その交渉は右組合員らの処分問題についての話合いに終始し、新賃金体系及び年間期末・勤勉手当についての話合いは行われなかったこと、以上の事実については当事者間に争いがない。
原告は、学園には従来から職員に対し基本給及びボーナスについては県立校と同一の基準で支給する慣行があるから、原告と組合との交渉が妥結しなかった以上、昭和五五年度分のボーナス等の支給基準は右慣行によることになり、本件交渉事項はすでに解決済みであり、学園は団体交渉に応ずべき義務がない旨主張する。したがって、仮に学園において原告主張の慣行があったとすれば、組合の前記団体交渉の申入れは、右慣行の是正を求めるものであるところ、前記当事者間に争いない事実によれば、昭和五五年五月二一日の団体交渉の席上においては、組合員に対する処分問題について交渉が行われたが、右ボーナス等の支給基準については全く交渉が行われなかったというだけのことであって、右ボーナスの支給等につき右慣行によるとの合意がなされたものとも、組合が原告に対し右ボーナス等の支給基準に関する要求について団体交渉権を放棄したものとも認められないから、本件交渉事項がすでに解決済みであるとすることはできず、原告の主張は採用できない。
2 同(二)(2)について
次の各事実はいずれも当事者間に争いがない。
(ア) 組合は学園に対し、昭和五五年一一月八日に本件交渉事項につき団体交渉の開催または書面での回答を申し入れ、同月一一日に予備交渉が行われたが、交渉委員と交渉場所の二点について合意が得られず、その後も団体交渉の開催の申入れと予備交渉が数回繰り返されたが、双方とも右の二点について自己の主張に固執し、団体交渉は開かれなかった。
(イ) そこで組合は局面打開のため同年一二月二日に香川県地方労働委員会に本件交渉事項に関する団体交渉開催についての斡旋を申請し、さらに同月三日及び四日にも団体交渉の開催を申し入れ、予備交渉も開かれたが、双方の主張は平行線のままであったところ、同日午後四時三〇分ころ、学園は組合に対し、冬季ボーナスについて組合の要求には応じられないこと、従来の算定ベースに基づき昭和五五年一二月五日に総額二・五か月分の期末及び勤勉手当を支給すること、この件につき組合に見解、提案があれば、文書で回答すべきこと、以上を骨子とする回答を文書で通知してきた。そこで組合の天野委員長は、翌五日午前八時二六分ころ、学園に対し、本件交渉事項については未だ一度も話合いは行われておらず、学園の回答には承服できないこと、早急に団体交渉を開催すべきこと、交渉なくして支給された場合は組合は前渡金として理解すること等を同月四日付文書で回答し、高松校の西山教頭補佐に手渡した。
(ウ) この報告を受けた高松校の倉田校長は、この組合の意思表示を学園の回答を拒否したものと理解し、直ちに西山をして組合に対し、当日のボーナスの支給は組合の組合員には保留する旨伝えさせた。そこで、同日午前八時三五分から開かれた職員朝礼において、天野が倉田校長に対し、「組合側は、ボーナスを受け取らないとは言っていない。組合員には支給しないということだが、どういうことなのか。」と質問したところ、倉田校長は、「個人の責任で受け取るのであれば、学校としては、拒否はいたしません。」と答え、これに対し、組合は特に異議を申し述べなかった。
(エ) そこで、組合は、年末に当たり組合員らが金員を必要とする事情もあったため、同日昼過ぎころ職場集会を開いて、前渡金として受領することを確認したうえ、各組合員は、学園支給の冬季ボーナスを他の職員と同様に受領したが、受領に際して、各組合員は前渡金として受け取るという明確な意思表示はしなかった。
(オ) 天野は同日午後四時二〇分頃、同日朝申し入れた団体交渉の開催を求めたが、学園は組合員全員がボーナスを受取ったのでこの件は解決済みであるとして団体交渉の開催には応じなかった。
原告は、本件交渉事項は昭和五五年一二月五日組合員がボーナスを受領したことによって解決済みであり、学園は団体交渉に応ずべき義務がない旨主張するが、右事実によれば、組合は本件交渉事項についてボーナス支給日の約一か月前から繰り返し学園に団体交渉を申し入れ、また、香川県地方労働委員会にも右開催についての斡旋を申請したが、開催条件についての合意が得られなかったため団体交渉が開かれないままボーナス支給日に至っていたのであり、学園の従来の算定ベースに基づく期末・勤勉手当の支給通告に対しても、右支給日当日に「交渉なくして支給された場合、組合は前渡金として理解する。」旨文書で回答しているのであって、右の経緯に徴すれば、前記(ウ)記載の倉田校長の発言に対して組合が特に異議を述べなかったとしても、組合が右学園の提示した条件によるボーナスの支給を了解したものと解すべきではない。しかも、前記事実によれば、職員朝礼における倉田校長の発言後に開催された職場大会において改めて前渡金として受領することを確認のうえ、各組合員は右ボーナスを受領し、かつ同日午後四時二〇分頃組合はボーナスの支給条件等につき同日午前中に申し入れた団体交渉の開催を迫っているのであるから、右受領によって本件交渉事項が解決済みとなったものと解することは相当でない。
さらに、原告は、各組合員は右ボーナス受領の際、前渡金として受領する意思を明らかにしていないので、もはや右ボーナスについて異議を述べることはできず、したがって、組合としても本件交渉事項について団体交渉を求めることはできないものであり、さらに組合員らに右ボーナスの返還をさせないまま団体交渉を求めることは信義に反する旨主張する。しかしながら、組合の前記態度からして、学園は、右各組合員らが右ボーナスを前渡金として受領する意思であり、後に組合が本件交渉事項について更に団体交渉を求めてくることがあり得ることを十分に認識しながら、右支給をしたものというべきである。また、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、学園は、昭和五五年五月二一日以降右金員支給当時に至るまで組合の度重なる要求に対し一度も団体交渉に応じていないことが認められ、かかる学園の態度に照すと、仮に右金員の受領を拒否した場合、これを年内に受領し得る保障がなかったため、組合員らはやむなく右金員を受領したものと解するのが相当である。したがって、右ボーナス受領の際、各組合員が前渡金として受領することを明示しなかった点に非難を免れ得ない点があるとはいえ、この点を捉えて組合が本件交渉事項について団体交渉を求める権利を失ない、あるいは、組合員に右ボーナスを返還させないまま右団体交渉を求めたことが信義に反するものということはできない。(証拠略)中、右認定に反する部分は採用し得ず、結局原告の主張は理由がない。
なお、原告は、昭和五六年一月二二日以降はボーナス支給の一般的基準を議題として団体交渉がなされているのであるから、組合も昭和五五年一二月五日のボーナス支給により、本件交渉事項が解決済みであることを了承していると主張するので検討する。組合は昭和五六年一月一七日本件交渉事項につき学園に団体交渉を申し入れたが、同月二一日の予備交渉において、高松校の津田事務長から、「冬季ボーナスについては、すでに支給済みであるので、団体交渉に応ずる意思はないがこのことは一応横にのけて、ボーナス支給の一般的基準についてであれば、学園としては団体交渉に応ずる用意がある。」旨申し向けられたため、翌二二日に、「ボーナス支給の一般的基準について及び勤務評定の基準について」という議題につき団体交渉を申し入れたことは当事者間に争いがなく、(証拠略)によれば、組合が右のように議題を一部修正し、団体交渉の申入れをしたのは、組合においては、当時本件交渉事項についてできるだけ速かに学園と団体交渉を重ね右問題を解決する所存でいたが、学園側がこれに応ずる気配を見せなかったため、津田の前記示唆を受けて前記のような議題の下に団体交渉を行うよう申し入れたものであり、それ故にこそ右交渉において組合は本件交渉事項を持ち出し要求の実現を迫っている事実が認められ、かかる事実に徴すると組合が右のように議題を変更したことをもって組合自身が本件交渉事項を解決済みのものであるとしていたものということはできない。(証拠略)中、右認定に反する部分は措信しない。したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。
3 同(二)(3)について
原告は、本件交渉事項については昭和五六年一月一四日及び三月一一日に団体交渉を開きその義務を尽くしている旨主張するので検討する。
昭和五六年一月一四日香川県地方労働委員会の斡旋もあり学園は組合との団体交渉に応じたが、その席上組合が、昭和五五年一二月五日支給の冬季ボーナスについて、組合の要求である三・一か月分の支給ができない理由について説明を求めたのに対し、学園は、(ア)学園の経営状態は公費補助を受けて現在の教育水準を保っている状態であること、(イ)体育館建設費の長期返済があること、(ウ)県から補助を受けている学園が県立校より高いボーナスを出すことは学園の方針としてできず県立校並みの支給が適切であることを説明したところ、組合がさらに、学園の財政事情のわかる収支概算、体育館建設費の返済計画等の資料を出して具体的に説明するように求めたが、学園は資料の提出を拒否したことは当事者間に争いがなく、(証拠略)を総合すると、学園は主として前記(ウ)の見地即ち公費補助を受けている学園は財政事情のいかんにかかわらず県立校並み以上にボーナスを出すべきではなくしたがって冬季ボーナスに関する組合の要求と学園の財政事情とは関係がないとの見地から組合の右説明要求等を拒否したものであることが認められないわけではない。
しかしながら、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、前記団体交渉の席上、学園が組合に対し、組合の要求に応じられない理由として、前記(ウ)の事由のほか、学園が公費補助を受けて現在の教育水準を保っていること及び体育館建設費の長期返済があることを挙げていることから、組合は、学園の挙げる前記(ウ)の事由が組合の要求に対する真の拒否事由か否かにつき疑問を持ち、学園が挙げた前記(ウ)の事由以外の事由の存否等につき組合の立場から前記収支概算等の資料の提出を要求し説明を求めていることが認められるところであり、かかる要求は右のような立場に立つ組合としては無理からぬところである。それゆえ学園としては少なくとも団体交渉においてさらに自己の立場について説明をするかあるいは資料の提出等につき支障が存するのならばその所以を説明をして組合の納得を得るよう努力する必要があったにもかかわらず、学園はかかる努力を払っていないことが明らかであるから学園は未だその義務を尽くしているものとはいえない。したがって、仮に学園の挙げる前記(ウ)の事由によれば組合の要求する資料等を提出する必要がないとしても、右経緯に鑑みると、それに固執して団体交渉を拒否することは許されない。故に学園は正当の理由なく団体交渉を拒否しているものといわなければならない。
次に、同年三月一一日の団体交渉について検討するに、学園は、香川県地方労働委員会の再三にわたる勧奨もあって、同日団体交渉に応じたが、その席上ボーナス支給の一般的基準として支給率と期間率について説明をしただけで、組合の要求する考課表による成績率の説明については、進学成績、生徒指導等勤務全般で決めていると説明するだけで、成績率の具体的な説明をせず、また冬季ボーナスについては既に支給済みであるので説明の必要はないとし、考課表については公表することを拒絶していることは当事者間に争いがない。そして(証拠略)を総合すると、昭和五三年一月二〇日に当時の高松校の校長であった宇喜多一塩が組合と面接した際に、学園は査定基準の構成要素ないし項目については、項目を分けて詳しく説明し、同年七月三日ころには倉田校長が組合に対し、ボーナス支給の一般的基準について説明してはいるものの、各々の項目にどの程度の金額を配分するかは示すことはできないとし、組合が問題にしている勤務評定の項目についてどの程度重きを置いているかという点については全く明らかにしていないことが認められる。
ところで確かに、職員個人の評価の結果を記載した考課表を公表することは当該個人の名誉にかかわるところが大きいのみならず、当該個人に対する使用者側の評価をも公表することになって妥当でない。したがって学園が組合に対し考課表の公表を拒絶したことは不当ではない。しかしながらまた勤務評定は客観的資料に基づき公平かつ適正に行なわれなければならないことはいうまでもないところであるから、評定事項及びその重要度等は能う限りこれを明らかにし被評定者の信頼を得るように努力する必要があるところ、前記認定事実によれば、学園は組合に対し、既に右評定事項については項目を分けて詳細に説明しているが、評定事項の重要度については全く説明していないし、前記成績率についても団体交渉において今少しきめ細かい説明も可能であったと考えられるにもかかわらず、学園は自己の立場を固執する余り十分な説明をなさなかったものといわざるを得ない。したがって、学園が右団体交渉において交渉義務を尽くしているということは到底できないから、この点に関する原告の主張は採用できない。
四 団体交渉拒否の正当性について
1 原告の主張(三)(1)について
原告は、組合が昭和五六年一月二六日から同年三月一一日までになした団体交渉の申入れは学園が多忙な折を殊更に選んでなされたものであって不当な目的に基づくものである旨主張するので検討する。
(証拠略)によれば、組合は学園に対し、昭和五六年一月二六日から同年三月一一日までの間に合計八回に亘り、同年一月二九日、二月四日、一二日、一八日、二四日、二七日、三月五日、七日を希望交渉期日とし、ボーナス支給の一般的基準について等を交渉議題として団体交渉を開催するよう求めていること、これに対し学園は当初は、多忙等を理由として団体交渉を拒否し、二月八日以後は三月に予定されている卒業式の後ならば団体交渉に応ずるが、組合の希望する期日は多忙でありこれに応じかねる旨答えていること、学園においては、右期間中は中学校及び高等学校の各入学試験や高等学校在校生の大学への入学試験、学年末の定期試験、卒業認定会議、卒業式等の例年行われる各行事のほかに、地方労働委員会や地方裁判所に係属している事件への対応という仕事があったことが認められる。しかしながら、(証拠略)によれば、昭和五四年及び昭和五五年の同じ期間には、それでも数回に亘って団体交渉が開かれていること、また右入学試験等の各行事は例年行われているものであり、しかも昭和五六年一月二六日から同年三月一一日までに学園の実質上の責任者である倉田康男が労働委員会及び裁判所係属の事件の打合せ等のために費した日時は三月二日ないし四日、七日、一〇日の五回にすぎない上、学園と組合との団体交渉の時間は当時概ね一回につき二時間程度にすぎなかったことが認められ、かかる事実殊に右事件打合せに要した時間及び団体交渉に要する時間等に鑑みると、右期間内に数回程度の団体交渉を持つための時間的余裕が学園になかったとは到底考えられない。(人証略)中右認定に反する部分は措信しない。したがって、原告が前記のように多忙を理由として団体交渉に応じなかったことは相当でなく、この点に関する原告の主張も理由がない。
2 同(三)(2)について
組合と学園との間には、昭和五二年一二月一三日に団体交渉の方法について協定が締結されており、その協定書には、団体交渉につき「交渉に当たっては、当事者間で自主的に解決するように努める。」との記載があり、学園は、右につき交渉は学園役員及び教職員のみで行う旨の口頭了解事項が存したとして組合執行副委員長の海野が出席するのであれば団体交渉には応じられない旨主張し、結局団体交渉が開催されなかったこと、なお海野は昭和五五年三月三一日雇用期間の満了を理由として雇止めになっており、同人はこれを不服として高松地方裁判所に対し学園教職員としての地位保全の仮処分を申請していること、以上の事実は当事者間に争いがない。
原告は、学園と組合との間には前記口頭了解事項が存したので既に当時教員の身分を失っていた海野は団体交渉に出席する資格がないにもかかわらず、組合は海野を交渉委員に選出しその出席を認めるよう要求するので、原告は団体交渉の開催を拒否したものである旨主張する。そこで先ず右口頭了解事項が存したか否かにつき検討するに、(証拠略)中には原告の右主張に副う部分が存する。
しかしながら、成立に争いのない(証拠略)によれば、右協定書には、団体交渉の開催方式として、前記条項のほか「交渉は、原則として、就業時間終了後に行うものとする。交渉は、それぞれ七名以内で構成する交渉委員会で行う。」等の定めがなされているが、交渉委員の資格等については特段の定めのないことが認められ、さらに(証拠略)によると、昭和五二年九月に組合が結成されたが、学園は団体交渉のルールが締結されない限り正規の団体交渉には応じないとの態度をとったため、右ルールの作成につき両者の間で交渉を開始したところ、学園は、交渉委員の数を五名とすること、双方の交渉委員は学園関係者に限ることを主張し、これに反対する組合との間で容易に合意に達せず、同年一二月一〇日には香川県労働委員会の斡旋もなされたが結局不調に終わり、同月一三日漸く前記のような協定が成立したこと、なお丸亀校の教職員をもって組織する組合と学園との間においては昭和五一年一〇月八日に団体交渉の交渉委員につき「組合側の交渉委員は、本校の教職員である組合員に限るものとする」との合意がなされその旨の書面が作成されていること、以上の事実が認められる。しかして右各事実によると学園と組合との間においては当初から交渉委員の資格について各々の主張が激しく対立していたのであり、もし仮に原告主張のような口頭了解事項が成立していたとするならば、右丸亀校におけるようにこれを文書化するのが通例であり、これを口頭了解事項のままとしておくことは通常あり得ないところであるから、結局交渉委員の資格については原告主張にかかる合意が成立していたと認めることは未だできず、前掲各証拠中原告主張に副う部分は措信しない。
なお、(証拠略)によれば、前記協定締結の際、学園は組合に対し団体交渉の交渉委員は学園の役員及び教職員に限定することを申し入れ、組合がこれを了承したかのごとき当時の組合書記長岡好孝の供述記載が存しないわけではない。しかしながらまた右同号証によれば、組合は右申入れに対し、労働組合法六条の趣旨を没却しないことを条件として右申入れを了承したことが認められる。ところで右条項は労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は使用者らとの団体交渉権限を有することを定めたものであり、組合側の交渉委員を従業員に限定しているものではない。したがって学園の申入れと組合の前記了解との間には形式上齟齬が見られるから、右を合理的に解するとすれば、組合は組合側の交渉委員を教職員に限るよう努力するが、なお教職員以外の者でも組合の代表者とすることはあり得る旨を申し出これを条件として右了解をなしたものというべきである。したがって、前記供述記載をもって直ちに原告主張の口頭了解事項が存したということはできない。
そうだとすると、学園と組合間においては、組合側交渉委員の資格について特段の取り決めがなかったことになる。したがって、組合側交渉委員を学園の教職員に限るとする根拠は存しないから組合が組合副委員長であった海野を交渉委員に指名することは当然許されるところであり、他に特段の事由がない限り、海野が学園の教職員でないことを理由として団体交渉を拒絶することは許されない。
のみならず、仮に原告主張のとおり、組合側交渉委員を学園の教職員に限る旨の口頭了解事項が存したとしても、(証拠略)によれば、組合と海野は学園が海野に対してなした昭和五五年三月三一日付の雇止めの効力を争い、当時右事件は高松地方裁判所昭和五四年(ヨ)第五二号事件として係属し未だその解決をみていなかったのであるから、かかる事情の下で学園が自己の立場に固執し、海野が交渉委員として出席することを理由として団体交渉を拒否することは信義則上許されないものというべきである。結局この点に関する原告の主張は採用し得ない。
なお、原告は、海野は団体交渉時に粗暴な態度に出やすく交渉委員として不適格である旨主張するのでこの点について検討する。
(証拠略)を総合すると、海野伸二は昭和五三年一二月ころから昭和五四年三月ころまでの間に一〇回前後にわたり、組合の要求が通らないことに不満を持ち、職員室における職員朝礼時に、組合員を部屋の後方に立つように指導したうえ、校長に対し怒号するなどして朝礼妨害を行ったり、多数の組合員の先導者となって、校長室に無断で入り、校長に対し罵声を浴びせ、机を叩くなどして校長の執務を妨害したり、校長の登校を待ち受けて、多数の組合員と共に校長を取り囲み執拗に付きまとい、かつ怒号罵声を浴びせるなどしたりしたこと、昭和五四年三月九日には学校からの警告書に異議を唱え、理事長の面前に立ち塞がったり理事長の乗車する乗用車の進行路上に座り込むなどして、二時間にわたりその進行を妨害したこと、昭和五四年三月二〇日には組合委員長に対する学園の出勤停止処分に不満をもち、組合員一〇数名を指揮して、帰途途中の校長を取り囲んだり、組合の要求を主張して執拗に付きまとったりしたこと、昭和五三年一一月及び一二月には、組合の要求を貫徹するために他の組合員と共に労務担当の西山宅や理事長宅、倉田康男宅に押しかけ、怒号するなどして騒いだこと、昭和五三年四月ころから昭和五四年二月ころまでの間に開かれた団体交渉の席上において、組合の要求が通らないと大声で怒鳴ったり机を強く何回か叩いたりしたことが認められ、(証拠略)のうち、右認定に反する部分は採用せず、(人証略)のうち、右認定に反する証言部分は措信しない。
右認定の事実によると、海野の行為の中には、その態様、程度からみて正当な労働運動の域を越えたものも少なくはないといわざるを得ないが、団体交渉時における海野の行為は右のように大声で怒鳴ったり机を強く叩くという程度のものであり、また前記認定事実によれば、右行為も常態的に行われたとまではいい難いものである。しかも、(証拠略)によれば、学園は組合結成以来、小会議室の提示板に組合ニュースの掲示を認めたものの組合が学園内に事務所を設置することを認めず、また原則として組合が校内において職場集会を開催することを禁止し、学園に郵送された組合宛文書等の受領及び取次を拒絶し、組合が闘争の一環として昭和五三年ころよりとって来た紙筒闘争(組合の要求を記載した紙筒を職員室の机上に置く闘争)及び組合ニュースの配付を禁止し、さらに右闘争を指導しあるいはこれに参加した天野、海野らをはじめ組合員に対し訓告処分を発し、さらに倉田キヨエ及び宇喜多らに対する前記昭和五四年三月九日の行為等について同年三月二〇日天野に対し三〇日間の出勤停止を命じ、同月三一日海野に対し同年四月一日付をもって講師に降職するなど組合に対し極めて厳しい態度で臨んでいること、他方組合もその闘争方針として校長、教頭等学園首脳部の権限縮少(ママ)を図るなど学園の経営権の否定とも受取られかねない態度をとり、また前記のように時には正当な組合運動の範囲を越えるような行為に出、実力でその要求を貫徹しようとするなど学園と組合とは事あるごとに対立闘争を繰返している事実が認められるが、かかる状況の下においては、本来話合いの場であるとはいえ労使の利害が最も対立する団体交渉の席上で海野が前記のような行為に出、団体交渉の円滑な進行を妨げたことがあったとしても、それのみをもってこれを強く非難し、直ちに団体交渉を拒否することは性急にすぎるものといわなければならない。したがって、原告において、海野が団体交渉に参加することによって団体交渉の円満かつ適正な進行につき支障を生ずることを懸念するのならば、右団体交渉の申入れに際し、海野において冷静に交渉に携ることを求め、もし交渉を妨げ団体交渉のルールを無視するような行為があれば、直ちに同人の退席を求めあるいは学園において団体交渉を打切る等の権限を留保する等の条件を付けて右申入れを承諾することも可能であったはずであるにもかかわらず、前記争いない事実及び弁論の全趣旨によれば、学園はかかる態度をとらず、ただ徒らに交渉委員から海野を除外しない限り団体交渉には応じないとするだけであるから学園の態度はやや頑なにすぎるものといわなければならない。それゆえ、海野を交渉委員から除外しない限り団体交渉に応じないとする学園の態度は正当でなく、この点に関する原告の主張は採用しない。
3 同(三)(3)について
原告は、団体交渉の交渉場所を学園内とした場合、組合が無断で小会議室を使用して騒々しく、生徒らに悪影響を及ぼすため銀星旅館での団体交渉を提案したもので、不当に団体交渉を拒否したものではない旨主張するので検討する。
昭和五五年一一月一一日、岡書記長及び中村書記次長の両名は、高松校の西山教頭補佐及び平畑教頭補佐の両名と、組合が同月八日申し入れた団体交渉の開催について予備交渉を行ったが、右予備交渉において、学園は前記交渉委員の問題とともに、組合は団体交渉終了後又はこれと並行して学園の許可を受けることなく小会議室(いわゆる休憩室)を使用して職場集会をすることがしばしばあったので、これを予防するため、団体交渉の開催場所は学校外とすることを主張し、これに対して組合は団体交渉を学校外で開催しなければならない合理的理由はないと主張したが、学園は前記交渉委員の問題についての学園の主張と右開催場所についての学園の主張を組合が容認しない限り団体交渉に応ずることはできないという態度を固執し、引き続き、同月一三日及び一四日の二回予備交渉を重ねたが、学園の態度は変らず、結局前記昭和五六年一月一四日の団体交渉に至るまで団体交渉が開催されなかったことは当事者間に争いがなく、右当事者間に争いのない事実に(証拠略)を総合すると、組合は、昭和五二年九月の組合結成後から小会議室の使用について、学園の許可を受けておらず就業規則に違反するとの理由で学園から警告を受けていること、その後組合は団体交渉の開催日には右交渉終了後又はこれに併行して小会議室で職場集会を行っていたが、その際には学園の定める方式による許可申請手続をとらず、独自の施設利用届なる文書を提出していたこと、学園は正式の小会議室利用の許可申請が出ても、原則として許可しない方針であること、学園は前記昭和五五年一一月八日の予備交渉において学校外の団体交渉開催場所として銀星旅館を提示したことが認められ、(証拠略)のうち、右認定に反する部分は信用することができない。右認定事実によると、組合が学園に無断で小会議室で職場集会を開催している点は確かに学園の就業規則に違反する行為であり、学園の提案を全く理由がないということはできないが、これによる施設管理上の具体的な支障について考えると、(人証略)によれば、学園では生徒の下校時刻は特別の許可があるとき以外は、原則として午後五時としており、また、教職員の就業時間終了時刻は午後五時一五分と定められているところ、団体交渉は通常午後五時二〇分ころから開かれていたことが認められ、また(証拠略)を総合すると、組合員らが団体交渉中に小会議室から押しかけ、ドアを叩いたり、外から怒鳴ったりしたことが数回あることも認められるものの、右に述べたとおり、当該時刻、生徒や一般教職員は既に下校していて校内には殆どいないのであるから、これらの者に対して悪影響が生じているとは認められないし、またドアを叩いたりした回数が数回程度にとどまることに徴すると、組合員らの右行為が団体交渉にとりそれほどの障害を伴うものであったとも考えられない。そして、本件全証拠によるも、学園がその主張にかかる施設管理上及び教育上の支障について組合に事情を説明したうえで、右支障を生じさせないような措置を講ずるように申し入れた形跡もなく、また、前記のように銀星旅館を交渉場所として提案するまでは、組合との間において団体交渉の場所につき事前に協議した形跡も認められないところであり、かかる事実に照らすと、本件交渉事項について団体交渉が申し込まれた際に、漫然として、同室の使用により諸種の支障が生ずるとして団体交渉の場所を校外に指定してこれに固執し、この条件が満たされなければ団体交渉に応じないとした学園の態度には、殊更に口実を設けて組合との団体交渉を拒否しようとするものがあり、団体交渉拒否の正当な理由があると認めることはできない。したがって原告と組合は、さらにこの点について協議を尽くし、本件命令のとおり、原告は団体交渉の開催場所を学校外とすることに固執することなく、団体交渉に応じる義務があるものというべきであるから、この点に関する原告の主張も採用することができない。
五 以上によると、学園のした本件交渉事項についての団体交渉拒否は、いずれも正当な理由を欠き労働組合法七条二号に該当する不当労働行為であるから、本件命令には所論の違法はなく、本件命令は正当である。
よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却し、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 福井厚士 裁判官 川添利賢 裁判官 酒井正史)